窓から差し込む日の光がつややかな金の髪をきらきらと輝かせていた。
 そうして、まさに光り輝いて見えるアイリーンはテンガアールの目にひどく子供っぽく映った。隠していた秘密を次々と暴露していくアイリーンは本当に楽しそうで、生き生きとしている。
「レパント、あの人と出会ったのは馬に乗って羊を追い立てている時でしたわ」
 ちょっと丈のある草むらが広がっていて、あの人、ちょうどそこで昼寝していたらしいんですの。でも見えなかったものですから、馬に乗ったまま踏んづけてしまって。
 あばらを折ってしまったんですのよ。
 そう言って、アイリーンはころころと笑う。
「あばら…」
 もはやテンガアールは呆気にとられたまま、話を聞くばかりだった。
「それで結局、わたくしの家でしばらく療養することになったんです」
 お互い若くて、気が荒い者同士だったからケンカばかりしましたわ。
 でも、いつの間にか好きになっていて。
「わたくしはレパントと一緒に家を出て、彼の家に嫁ぎましたの」
 そして、そこで初めてアイリーンは細い眉を曇らせ、小さなため息をついた。
「でも、最初はすごく大変でしたわ。彼の家は元々名家でしたから、いろいろと社交的な場所でのお付き合いとか礼儀作法とか…それこそ数え上げたらキリがないくらい、それまでわたくしが生きてきた世界とは違っていたんですもの」
 あなたがさっき言ったように。
 ”わたしなんかダメだ”って何度も思いましたわ。
「えっと、じゃあ…今みたいのってその時からなの?」
 ぼく、アイリーンさんは生まれた時から今みたいだったんだって思ってた。
 本当に信じられないとばかりに呟くテンガアールにアイリーンは笑う。
「生まれた時からというのは大げさですわ。でも、そう、その時わたくしはレパントと一緒にいるために外から見える自分を少しだけ、変えました」
 丁寧な言葉遣いに、優雅な立ち居振る舞い。
 かよわい女性というイメージは、相手を適当にあしらうために都合が良かったから。
「そんなの、嫌じゃなかった?」
 テンガアールは思わず身を乗り出して、尋ねていた。
 ほんとは想像もつかないけれど。
 もし、ヒックスがお金持ちかなにかで。
 一緒にいるためにおしとやかな女の子にならなくちゃいけないとしたら…。
「ぼくだったら…すぐに音を上げると思う」
「正直なところ、もう嫌で嫌で、何度も家族の元に帰りたいと思いましたの。でもレパントと離れたくありませんでしたし、それにわたくし、こう見えて負けず嫌いでしたから」
 くすっといたずらっ子のように笑ってアイリーン。
「こんな”クソババア”どもに負けるものかって、ね」
「ク、クソババア…って…」
 テンガアールはあまりにギャップのありすぎる言葉に息を詰まらせた。なんだか聞いてはいけないモノを聞いてしまった気がする。
 アイリーンはやさしく微笑みながら、驚きの連続で目を丸くしたままのテンガアールの髪に手を触れた。
「でもね、テンガアール。わたくしは自分のこと、そんなに変わったと思っていませんの」
 昔、馬に乗って草原を駆けめぐっていた頃と同じ。
 確かに”大暴れ”なんて今ではしませんけれど、しようと思えばいつでもできますし。
「それはたぶん、心まで変えようとは思わなかったから、ですわね」
「心…」
「どこにいても。どんな風に変わっても…」
 わたくしはいつも自分らしく生きたいと願っているのです。
「なぜなら、レパント…あの人が愛してくださった”自分”をわたくしもまた愛しているからなの」
 そう、一つだけ言えることがあります。
「あの人はわたくしがこんな風に変わったから、だから、愛してくださったわけではないんですのよ」
 そう言うアイリーンの姿はどこか誇らしげで。
 やっぱり素敵な女性だとテンガアールは感じたのだった。


 NEXT ・ BACK