「朝も早いというのに元気ですわね」
おっとりとした声がそう言葉を紡ぐ。
「若いというのはうらやましいものだな。アイリーン」
それがバレリアとビクトールの死闘を見下ろし、レパント夫妻がもらした感想だった。
『アレを見て、そうくるか』
思わずフリックは目眩を覚え、肩で壁に寄りかかった。
ただでさえギリギリにまで張りつめていた緊張の糸が切れて、全身脱力状態だというのに更なる追い打ちをかけられた気分だった。
まあ、いつも穏やかなアイリーンはいいとして、レパントまでもが同じ反応をするのは辛すぎる。
ビクトールたちは誰かが止めるべきところまで来ているというのに、おそらくこの夫妻はそんなコト思いもしないんだろうな、と。
「まあまあ、本当に仲が良ろしいこと」
「あの絶妙な切り返しは見事に息が合っておる」
「楽しそうですわ」
「楽しそうだな」
微笑み合う夫婦の仲睦まじい姿というのは誰もがうらやむモノであるが、
『ちがうだろーがッッ』
とフリックは腹の中で叫んだ。
それともなんだ?
本当にバレリアとビクトールは楽しげに剣を交えてじゃれていると?
アレが本気の殺し合いに見えるのは心配症の自分が感じる錯覚?
ちらりと窓の外を見下ろし、
『まさに獲物を狙う目だよな』
確認するまでもないコトを自分自身に言い聞かせるように呟く。
「俺は…早く止めた方がいいと思うが…」
言うだけ無駄かもしれないと思いつつ、そう言ってみる。するとアイリーンは見事、彼の思いを裏切るコトなく不思議そうに首を傾げたのだった。
「あら、どうしてですか?」
「どうして…って、その、ケガをしたら大変じゃないか」
なんでこんな説明をしなけりゃならないんだ、と思いながらやっとのことで言葉を押し出したフリックの肩が厚い手で叩かれた。
「なにを言っておる。あやつらも一人前の戦士。分はわきまえておるさ」
「いや…」
だから、アレを見てどうしてそうノンキなコト思えるんだ!?
そう胸の内では叫びつつも、もはやフリックに口を開く気力はなかった。
『俺が止めるしかないんだ』
悲壮感さえ漂う決意を胸にもう一度、ビクトールたちを止めるタイミングを計ろうと試みる。が、
「剣と剣同士というのも良いものですわね」
「ああ。技を磨く稽古をするには便利だな」
剣と斧では刃の長さがちがってくるから、やりにくい。
そんなことを和気あいあいと語り合う夫婦の存在がフリックの集中力を散漫にした。
「ちょっといいかげんに−−−」
さすがにフリックがキレかけたその時、
「あら、そうですわ」
何かを思い出したというようにアイリーンがぽんと手を打った。
「わたくし、バレリアさんにお話がありましたの」
そして、ぎょっとするフリックの前で彼女は土の紋章の力を解放したのだった。
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