明るい黄色のワンピース。
 その色彩に負けないくらい明るい笑顔をした少女はまるで真夏の向日葵のようだった。
「アイリーンさんが部屋に来てくださいだってさ。バレリアさん」
 ちゃんと伝えたからね。
 そう言うなり、くるりと踵を返して走ってゆく元気さが実に微笑ましい。
「ありがとう。テンガアール」
 少し前に無神経男の言葉で受けただろう傷はそこに見受けられず、バレリアはほっとしていた。
 愛すべきテンガアールの姿が間違った方向へ歪まずにすんだコトが素直にうれしい。
「それにしても、アイリーンさんが私に何の用だ?」
 珍しいな、と呟き、部屋へと向かう。
「アイリーンさん。バレリアです」
 ノックの音に「どうぞ入ってきてください」とやわらかな声が応える。
 そうして、招かれて入った部屋の中で目にしたモノに思わず彼女は立ちすくんでしまった。
「どう?素敵でしょう?」
 にこにことうれしそうに微笑みかけてくるアイリーンに戸惑った目を向ける。
「確かに…素敵だと思いますが、…その、これは?」
 テーブルの上に広げられていたのは色鮮やかな真紅の布で作られた一着のドレスだった。
 宮廷の舞踏会に着て出てもおかしくないような、そんな服がどうしてこんなところあるのだろうか?
 戦いの連続である解放軍にあってドレスというものほど不要で不似合いなモノはないというのに。
「あら、お忘れになりましたの?」
 この間、クントーさんから布地をわけていただいて。
 仕立てに出していたじゃありませんか。
 その説明に数週間前の出来事を思い出す。
『ということは…まさか』
「コレは私の分、ですか?」
 無意識のうちに頬が引きつっていた。
 解放軍の女性たちに美しい布が配られた時、別段、服を作る気のなかったバレリアは布地を選ぶことすらしなかった。そんな彼女を見かねて、お節介を焼いてきたのがアイリーンだった。
 彼女は気の進まないバレリアを完全に無視し、長い時間をかけて布の見立てを終わらせると仕立てに出す手はずも整えてくれたのだ。その時の、まるで着せ替え人形のごとく次々と布を体に巻きかえ続けるという苦行の時間を思い出しながら、バレリアは目眩を覚えた。
 確かにデザインなどすべてアイリーンが勝手に引き受けてくれたのだが…。
 いくらなんでもコレはないんじゃないか…と思う。
 着る必要がない以上に、彼女にとってドレスという代物は天敵に近い存在だったのだ。
「サイズが合うかさっそく試着してみましょう」
「え?」
 無意識のうちにほとんど逃げ腰になっていたバレリアの腕がむんずとつかまれる。
 彼女を見上げる笑みは凶悪なほどの善意に満ちていた。
「ね、絶対似合いますわ。早く合わせてみてください」
「しかし…」
「ご安心なさって。ちゃんとあなたに似合うように、わたくしがデザインしましたから」
 “わたくしが”の部分をことさら強調されているように思えるのは、気のせいだろうか?
 手触りの良いドレスを手に取り、バレリアはため息を噛み殺す。
『まいったな…』
 こんな贅沢品。
 必要などないというのに。
 それでも期待に満ちた目を裏切ることは彼女にはできなかった。


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