用がない時には向こうから勝手に現れることもある。
 が、こっちから探すとなるとなかなか見つからないのがビクトールという男だった。
「急いで探してくれって言われてもなあ」
 よく居そうな場所などバレリアが既に探し終わっているだろうし、盗人がそうそう追っ手に見つかる場所にいるはずがないのだ。
 そうわかっているからこそ、バレリアも協力を求めてきたのだろうが…。
「うーん、どこにいることやら」
 まともに探していては、日が暮れても見つからないだろう。
 バレリアには悪いが早々に諦めたほうが賢いってもんだよな、とフリックは思った。
 そして、いったん自分の部屋に戻るかと踵を返しかけ…。
「って、あれは!?」
 目の端を横切った影に勢いよく振り返る。
『ビクトールっっ』
 思わず瞬きしながらも、フリックは自然と追跡体勢に入っていた。
 よくもまあ、都合良く見つけられたものだと自分の運の良さに関心してしまう。
『何を見てるんだ?』
 柱の影に隠れたビクトールは微動だにせず、どこか一点を見つめていた。
 フリックはひょいと首を伸ばし、見えたモノに『うっ』と息を詰まらせた。
 ビクトールが見ていたのはなんとバレリアだった。そして、バレリアがどこか向こうに消えるのを待ってから慎重に動き出す。
 まるで戦場にいるかのような緊迫感をそこはかとなく感じる。
 事情を知っているフリックにとってその姿はやけに情けなく見えた。
 よほど後ろめたいコトがある…というか、そんなにバレリアに見つかりたくないのか!? 
「おまえなあ、何やってるんだ」
 こっそり背後に忍び寄り、そう声をかけると相手はまさに飛び上がって驚いた。
「だわあああっ」
 振り向いた拍子に壁にごつんと頭をぶつけるあたり、いつも以上に何かあるようだ。
 しかも…。
「なに剣まで抜いてんだよ」
 しっかり自分に向けられている切っ先にムッとしながら、フリックは相手を睨みつけた。
「フ、フフ、フリックじゃねえか。よ、よお」
 慌てて剣を鞘に収めたビクトールはいつもどおりに振る舞おうと試みたようだが、声はどもっているうえに視線まであさっての方向を向いていた。
 さりげなく背中に隠した手にはバレリアの本が握られていたコトもフリックにはバレている。
「あっ、バレリアじゃないか」
 ビクトールの背後へ視線を流し、そう声を上げると案の定、ビクトールは慌てて後ろを振り返り…。
「ああっ。だましやがったな、フリック」
「こんな子供だましの手に引っかかるかよ?ふつう」
 怒りもあらわな相手に意地の悪い笑みを返し、彼はかすめ取った皮表紙の本をちらりと見た。
 これが問題の本か。
「バレリアが探してたぞ。好奇心もたいがいにしとけよな」
 巻き込まれる人間のコトも考えてほしいものだ。
「いいだろーがっ。さっさと返せよ、ソレ」
 噛みつくように言うビクトールにフリックはすっと目を細めた。
「返すのはおまえじゃなくて、バレリアに、だろうが」
「ちゃんと後でオレから返すからいいんだよッ」
 関係ないヤツは引っ込んでろ、とわめくビクトール。
「いいわけあるかッ」
 あまりにも子供じみた態度に、フリックは一喝する。
「見たいなら、ちゃんとバレリア本人に了解を取ればいいだろ」
 そして、もっともらしいことを言うフリックに対し、ビクトールはぼそりと何か呟いた。
「なんだ?はっきり言ってみろ」
「…だから、見せてくれるわけねえってんだよ」
「?」
 だから…ともどかしげにそう言いかけたビクトールの顔が次の瞬間、真っ赤になった。
 耳まで赤いそれが怒りによるものでないコトは確かなようで…。
 どうやら照れているらしい。
「ビクトール?」
 なんなんだいったい?気持ち悪いな。
 思わず一歩引いたフリックをビクトールは赤い顔のままジロリと見返して、
「だからっ、それはあいつの日記帳なんだよ」
 わかったら、返せ。
 低く唸るような声で彼はそんなコトを言ったのだった。


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