掴みとろうとすると、すっとかわされる。
ほんのすぐ目の前にありながら、手に入らないソレに彼は苛々と足を踏み鳴らした。
「返せっつってんだろ!フリック」
「あのなあ…こいつがバレリアの日記帳だってんなら、おまえに渡せるわけないだろうが」
悪事に片棒を担ぐなんてマネ、ごめんだ。
冷たい目でそう言い、間合いをとるように後ろへ下がる相手に彼は舌打ちする。
「これが悪事っつーほどのコトかよ!?」
「他人の秘密を盗み見るのが悪事以外のなんだって?ビクトール」
「ぐぐ…」
フリックの言葉はそうそう看破できないほどの、まさに正論だった。
しかし、そうとわかっていてもここで諦めるわけにはいかない。
今度は両手をぱんと合わせ、
「頼むっ!今度、酒でもおごってやるから」
返してくれと懇願の体勢に入る。
が、フリックもそんな誘いにのるほど軽薄ではなかった。
「バカ言ってんじゃねえよ」
吐き捨てるような返事にビクトールは慌てる。
そして、彼は身を切るような思いで最後の選択をした。
「そ、そうだ。ほんとのところ、おめえもそいつに興味あったんだろ?」
一緒に見ねえか?
ちらっとならバレねえって。
「…………」
フリックは本に視線を落とし、少し考えるように沈黙した。
そこにビクトールはかすかな希望を抱く。
「だからなっ、そいつをオレに…」
「ビクトール」
低い声にビクトールは自分の作戦が見事に失敗したコトを知った。
「いい加減にしろ!」
「そうは言うけどよ、オレはまだちょっとしか見てないんだぞっ」
「そんなコト、俺が知るかっっ」
そして、足に力を込めたフリックは素早く身をひるがえした。
「させるかよ!」
逃がすものかと勢いよくタックルして、フリックを突き倒す。
なんとかつかんだ本はしかし、フリックの手にもしっかり握られていて。
「放せッ。フリック」
「おまえが諦めろ!ビクトール」
間近で睨み合う二人は互いに引く気などなかった。
「このままだと破れちまうだろーがっ」
「だったら、おまえが放せばいいだろ」
「ぐうううっ」
「むううっ」
ビリッ。
あっと思った瞬間には本は真っ二つに裂け、その両端を持っていた二人は勢いよく床に尻もちをついた。
「ってえ…」
「げえっ!?しまった」
留めていた糸まで切れたのかバラバラと床に散らばった本のページに、ビクトールは顔を引きつらせた。
なりふりかまわず慌てて、かき集める。
「フリック!ぼさっとしてねえで手伝えよ」
「………………ああ、くそっ。なんでこんなコトになるんだよ」
ぶつぶつぼやきながらフリックも一枚のページを取り上げ…。
「って、こいつは…」
大きく目を見開くその様子にビクトールは『しまった』と舌打ちする。
「勝手に見るんじゃねえ!」
とっさにページをひったくったものの、それが無駄な行為だというコトはよくわかっていた。
そして、響く笑い声に彼は心底嫌そうに顔をしかめたのだった。
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