白い何かが宙を舞う。
 鮮やかな青空を横切るそれに彼女は目を細めた。
「?」
 砦の下を歩いていた彼女がついと手をのばして、受け止めたのは一枚の紙片。
 そこに書かれた文字に視線を落とし、彼女は思わず目を見張る。
「これは…」
『なんだってこんな物が上から降ってくるんだ!?』
 見覚えのある文字と内容からして、それはまさに彼女が探しているモノの一部に違いなかった。
 上で−−−つまり砦の中で何が起こったかはわからないものの、あの”日記帳”がばらばらになってしまったらしいコトはわかる。
『いったい何をしてくれたんだ?ビクトール』
 エレベーターを待つのももどかしく、彼女は階段を駆け上った。
 こんなことをした犯人をとっちめるのはもちろんだが、とにかく、できるだけ人目に触れないうちにこれを回収しなければ。
 そうして、廊下の角を曲がろうとしたところで彼女は大きな壁にぶち当たった。
「−−−ッ」
 それは視界をふさぐほどに大きな背中。
 とっさに避けようと足に力を入れたものの避けきれず、彼女は体半分体当たりするかたちで前へとつんのめった。そして顔から床に突っ込もうとしていた体がすんでのところで支えられる。
「大丈夫か?バレリア殿」
「………も、申し訳ありません。レパント殿」
 いくら急いでいたとはいえ、相手を避けきれずに体当たりしてしまうとは我ながら情けない。
 しかもそれは、いけないとわかっていて廊下を走るという愚行を犯したうえでの失態だった。
「本当に申し訳ありません」
 腕を引かれて体を起こしながら、バレリアは改めて謝罪する。
 そして、彼女は手に握っていたはずの紙片がそこにないことにふっと気づいた。
 慌てて床に目をやると、先に紙片を見つけたレパントが手をのばして拾い上げるところだった。
「レ、レパント殿っ!それは−−」
 止める間もなく紙片に目を落としたレパントの表情が固まる。
「…………」
「あの、か、返していただいてよろしいですか?」
 書いてある内容を見て、彼はどう思っただろう?
 説明が必要だろうか?説明?
 なんて言えばいいんだ?
 今さらながらに、内容を見られたうえでそれを自分のモノだと言うには抵抗があった。
 珍しく混乱する頭でそんなことを考えていたバレリアの前に、彼女が拾ったのとは別の紙片が二枚、差し出された。
「?これは…?」
「つい今しがたそこで拾ったのだが…」
 渋い表情でそう言うレパントの口調は彼にしては珍しく歯切れが悪い。
「その…」
「どうかしましたか?」
「それがだな…」
「はい…?」
 紙片を握るレパントの手は心なしか震えているように見えた。
「実はこれは…」
「これは?」
 わたしの物なのだ。
 聞こえるか聞こえないかの小さな声での告白。
 そのあまりの意外さにバレリアも驚きを隠せず、呆然とレパントを見上げたのだった。


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