『おいおい、いったい何枚あったんだよ?コレは』
 廊下の床一面に飛び散った紙片を見ながら、彼は頭を抱えたくなった。
 開いた窓から飛び込んできた突風にあおられ、落とした日記帳のページは足下どころか廊下の先まで続いていた。
 こうなった責任の半分は自分にもあるし、このまま放って逃げるわけにもいかないから手当たり次第に拾い集めているものの、なんだか理不尽さを感じてしまう。
 と、小走りに駆け寄ってくる靴音が聞こえ、彼は顔を上げた。
「フリックさん、袋を持ってきましたわ」
「ありがとうございます。アイリーンさん」
 そう礼を言って、口を広げた袋へと彼は抱えていた紙片をまるで雪崩のごとく流し込んだ。それにすぐ横で待ちかまえていた少女が続く。
「わあ、いっぱいだね」
「三人で集めればすぐに片づきますわ」
 頑張りましょうね。ビッキー。
「本当にすみません」
 持っていた袋を廊下の端に置いてさっそく床に散らばる紙片を拾いにかかったアイリーンに、フリックはもう何度目かの謝罪の言葉を口にした。
 するとアイリーンはいつもどおりの穏やかさで、
「仕方ありませんわ。こういうこともたまにあることですもの」
 気にしないでくださいとばかりに微笑む。
 その様子にフリックはなんだかますます申し訳ない気分になってしまう。
「なんとか全部…回収しますから」
「そうしていただけると助かりますわ」
 ちぎれた”日記帳”−−−その持ち主はなんとアイリーンだった。
 風で飛ばされた一枚を見つけて急ぎやってきた彼女の説明によると、しばらく前に”日記帳”を落とし、それをバレリアが拾っていたことは知っていたらしい。
 が、恥ずかしくてなかなか名乗り出せないでいたというのだ。
 そんな状況で中身を一枚だけ見つけた彼女はさぞかし驚いたにちがいない。
 しかも大切な思い出の代物だろうモノがこうも無惨な姿をさらしているのだから、原因の一端を担ったフリックとしては恐縮するよりなかった。
 問題を起こすだけ起こしていなくなった迷惑男が本当に憎々しい。
『くそうっ。覚えてろよ!ビクトール』
 と、そこにまたも駆け足で近づいてくる靴音が二つ。
「どうしたんだ?フリック殿」
「バレリア…」
 来る途中で拾っただろう紙片を何枚も腕に抱えてやってきた相手に、彼はふうっと息をついた。
「どうもこうも…ビクトールのヤツが引っ張ったせいでこうなったんだよ」
 思わず愚痴が口をついて出てしまう。
 そもそもの元凶はバレリアが”日記帳”のコトをビクトールにまで隠していたからなわけで。
「ビクトール…?」
「どっか行っちまったよ」
 本当はその時の様子が少しおかしかったコトを教えるべきなのだろうが。
 巻き込まれて不本意なとばっちりを食った身としては、腹が立つから教えてやらない。
 それよりも…。
「どうかしましたか?レパント殿」
 愛する妻を見つめたまま立ち尽くすレパントを怪訝そうに見返して、バレリアが問う。
 するとレパントはその声でハタと我に返った様子で、慌てて紙片を拾うべくかがみ込む。
「い、いや、なんでもない」
 早く拾い集めなくてはな。
「これで五人になりましたわね」
 きっとすぐに片づきますわ。
 にこにことうれしげに微笑むアイリーンと、なぜか顔が強ばっているように見えるレパント。
 その対照的な態度とどこかぎこちない雰囲気にフリックはバレリアとこっそり顔を見合わせた。
 しかしまあ、この場合、余計な詮索はしないほうが無難なのかもしれない。
「みんなでやったら早いよね」
 おっかたづけ♪
 ただビッキーだけが何も気づいてないかのように弾む足取りで紙片を飛び越えたのだった。


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