竪琴の奏でる音が流麗な曲を作る。
 その優雅さを感じる旋律はある一定のリズムを刻んでいた。
 それに合わせて体を動かしながら、
『なんでこうなったんだろうな』
 彼女はともすればこぼれそうになるため息を噛み殺した。
 くるくる回る視界に映るのは色鮮やかに咲き誇る無数のバラ。
 物珍しいモノでも見るような目をして自分たちを見ている観客。
 そして−−−。
「せっかくなんですから、もう少し楽しそうにしてください。バレリア」
 かつて上司であった相手に彼女は苦笑を返した。
「すみません、ミルイヒ様」
 ダンスは苦手なんです。
 正直に告げる彼女にミルイヒは少し困ったような顔をしたものの、握った手を離す気はないらしく、
「だからといってここで逃しては、こんなチャンスなど二度とないかもしれませんからね」
 小さく笑いながら、竪琴を奏でるカシオスに視線を流した。
 すると音楽は切れ目など感じさせぬスムーズさで、曲目を変化させた。
 同じワルツのリズムでありながら、少しテンポが早くなる。慣れた様子で踊り続けるミルイヒに、しかしバレリアも負けてはいなかった。ごく自然に足運びのリズムを変える。
 その拍子に、広く開いたドレスの胸元で銀鎖の先についた小さなガラス玉が跳ねた。
「今度首飾りを贈りましょう」
 ふいに呟かれた言葉に彼女は怪訝な目を向ける。
「え?」
「このドレスに似合う首飾りですよ」
「…………」
「このドレスにはもっと大きな石のついた豪華な首飾りの方が似合うでしょう」
 あなたの美しさをさらに引き立たせてくれるにちがいありません。
 その言葉にバレリアは小さな笑みをこぼした。
『私の美しさ…?』
 それは違う、と彼女は声なく胸の内で呟く。
 真紅のドレスを身につけ鏡に映った姿は自分でも、”見れないほど悪く”はないと思えた。
 しかし、その姿はひどく不自然で。
 まるで自分以外の人間のようで。
『今の私は”私”ではない』
 確かにこの姿も自分の一部ではあるけれど。
 私が本当に好きな”自分”はこんなモノではないから。
「せっかくのお言葉ですが、豪奢な首飾りなど私には必要ない物です」
 相手に不愉快な思いをさせるかもしれないとわかっていても、そう言わずにはいられない。
「それは実に残念です」
 しかし、当の相手はというと表情を曇らせるでもなく、
「でも、あなたならそう言うと思っていましたよ。バレリア」
 いたずらっぽい光を浮かべた目をして、そう応えたのだった。


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