「んあ?なんだあ?」
 どこか遠く、それも階下から響いてきた爆音に彼は間の抜けた声を上げた。
「また何か失敗でもしやがったのか?」
 発明家のカマンドールが何かやらかしたのか。
 それとも、誰かが紋章の力を暴発させたのか。
 相変わらず騒々しいところだぜ、と常に騒動の中心にいる男は人ごとのように呟いた。
「それで、君はいつまでぼくの部屋にいるつもりなんだ?ビクトール」
 砦の中でも一番広い個室を与えられた少年は、愛用の棍棒をビュンッと振って尋ねた。
 目の前に敵を想定しているのか、瞳を一点に合わせて彼は腕を動かす。師匠の技を見事に受け継いだ隙のない動きにビクトールは感嘆の目を向けながら、唇を歪めた。
 そう、バレリアに追われ、彼がちょうど逃げ込んだ先は解放軍のリーダーの部屋だった。
「固いコト言うなよ。もうちょいいいだろ」
「良くない」
 少年は即答し、腕を止めてビクトールに向き直った。リーダーとして経験を積んだおかげか、その目は最初に会った頃よりひどく大人びたものになっていた。
 そんな少年に冷ややかに見据えられ、剛胆なビクトールも珍しく居心地の悪い気分になる。
「どうせまた何かやらかして、逃げてきたんだろ?とばっちりはごめんだよ」
「そう冷たいコト言うなよ。イルフ」
「まあ、場合によっちゃ君の味方しないでもないけどね」
 そのセリフにビクトールは「うっ」と言葉に詰まった。
 解放軍のリーダーたる者として、イルフは常に公明正大であるよう振る舞うことを心がけている。
 が、それはよく見える外面の一面で、実際は違うコトをつき合いの長いビクトールは知っていた。
 世の中を上手く渡っていくことを第一に頭に置いている少年は、余計な敵を作らないためならたいがいの犠牲もやむなしとするのだ。つまり、場合によっては相手が旧知のビクトールだろうと見捨て、敵の中に突き落とすくらい平気でやってのける性格だった。
 そう、それが公明正大な理由に基づくものであるなら、なおさらためらいはしない。
「で、やっぱり言えないようなコトしたんだ?」
 イルフの目がキラリと光り、ビクトールは内心冷や汗をかく。
「そんなたいしたコトじゃねえよっ。オレはただちょっと…」
「ちょっと?」
「ちょっと間違っただけだよ!」
 バレリアの酒を盗み飲みしただけだ、なんて言おうものならどんな目にあわされることか。
 ビクトールは短い髪をがりがり掻きながら、口早に言い捨てた。
 そんな彼の様子を冷徹な観察者のごとく見ていたイルフは軽く肩をすくめ、
「ふーん。別にいいけどね」
 どうせいずれわかるコトだし。
 同情のカケラも感じられぬ声でそう言った。
 そのあまりの無情さにビクトールは大きくため息をつく。
「あのな、イルフ…」
 いくらなんでもそれはねえだろーが?
 そう言いかけた彼の言葉を遮るように、その時、威勢のいいノックの音が響いた。


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