「探すっつってもなあ…」
 のんびりと廊下を歩きながら、ビクトールはぽつりと呟く。
 自分の部隊との連絡も手短に終え、剣の確認も済ませた彼は戦闘開始までしばらく時間のゆとりがあった。
 だから、なんとなく部屋を出てみたものの、フリックが無理矢理押しつけていった人捜しをする気にはなれない。
「つーか、どうやって探せるってんだよ」
 右へ左へ忙しそうに行き交う仲間たちを見ながら、彼は肩をすくめる。
 ついさっきまで窓の下を歩いていたと思っていた相手が数分後には廊下の先を走っていたり、目の前を走ってきて横を通り過ぎた相手がまたも同じように前からやってきたり。
 そんな状態でたった一人を見つけるなど不可能なのだ。
 それにどうせあのバレリアのことだ。自分の部隊の準備もおろそかにしているとなれば、きっと誰かに別の用事を言いつけられたとか、自分から誰かの手伝いをかって出ているとか。
 とにかく、何か事情があってのことだろう。
 まさか人気のない場所で昼寝している、などというコトはあるまい。
 放っておいても、ちゃんと時間に間に合うようにすべて用意万端整えてしまうヤツなのだから探す必要もないと思う。
 そう思う、のだが。
『まあ、まだ時間あるしな』
 無意識のうちに周りへと目を配ってしまう自分に彼はそんな言い訳じみたコトを言って、苦笑した。
 結局のところ、わずかな時間でもあるならバレリアに会いたいというのが本心なのだ。
 帝国戦までの数日間は互いに受け持つ部隊が違ううえ、任される仕事の種類も違うから日中彼らが顔を合わせることはほとんどなかった。食事や休憩時間だけでなく、就寝・起床の時間まで不規則だからただ相手の寝顔を見るのが精一杯という状況。
 言葉を交わすのはすれ違いざまの挨拶程度で。
 会えない禁断症状から周囲の人間に八つ当たりしたのも一度や二度ではない。
「しっかし、どこにいやがるんだか」
「なんだ。誰か探してるのか?ビクトール」
 背後からふいに響いてきた声にビクトールは思わず飛び退くほどに驚いた。
「イ、イルフ!?」
 今の今まで気配も感じさせず現れたのは解放軍リーダーの少年だった。彼はつまらなそうな顔をして、肩をすくめてみせる。
「ヒマなら仕事を頼もうと思ったんだけど」
「ヒ、ヒマなわけねえだろっ。人捜ししてんだよ」
 年下にも関わらずイルフというのは実に食えない性格の持ち主だ。
 面倒な用事を押しつけられてたまるかと、一応、断る理由があったコトにほっとしながらビクトールは応じる。
「へえ、誰を探してるのさ?」
「バレリアだよ」
 素直に言って、反射的にマズイと顔を強ばらせる。
「い、いやっ、私的なもんじゃねえぞっ!フリックに頼まれてだな…」
 焦って言葉を継ぎ足しながら、早くも彼はもうダメだと諦めかけていた。
 このままきっと時間ギリギリまでこき使われるに違いない。
 しかし、少年は少し呆れたように吐息をついただけだった。
「別に…私的なことでもかまわないと思うけどね」
「へ?」
「とにかくっ!時間がないんだから、のんびりしてる場合じゃないだろ」
 探すつもりなら、駆けずり回ってでもさっさと探す!
「そうは言うけどよ…どこで何してるかわからねえんだぜ?」
「そんなコト、簡単にわかるさ」
「はあ?…まさか愛の力とか言わねえよな」
 フリックの言葉を思い出し、思わず嫌な顔をしてしまったビクトールに少年もまた嫌そうな顔をした。
「なんだよ、ソレは」
 簡単にわかるっていうのはぼくが居場所を知ってるからだよ。
「ほ、本当か!?イルフ」
 仏頂面のまま少年は頷き、窓の外を指さした。
「ついさっき桜の樹の下にいるのを見たよ」
 でも、急がないともういなくなってるかもしれないな。
 それを聞くや否やいてもたってもいられず、ビクトールは身を翻した。
「ありがとよ。イルフ」
 その猪突猛進という言葉が相応しい勢いに、誰もが廊下の端に身を寄せる。
 そんなビクトールの後ろ姿に少年はやれやれと肩をすくめると、
「本当に世話の焼けるヤツだな」
 呆れたようにそう呟いたのだった。


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