| 人魚姫T-【1】 |
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| 『ばっかじゃないの?』 明るいオレンジ色した尾で力強く水を打ちながら、テンガアールはそんなことをこっそり思いました。 彼女とて平和で穏やかな時間が嫌いではありませんでしたが、変化のないそれはなにより退屈すぎたのです。嵐なんてスリリングな出来事は、彼女にとっては楽しいイベント以外の何ものでもありません。 うきうき心が弾みこそすれ、心配とか不安とかいった気持ちなどとは無縁でした。 しかし、残念なことにそんな彼女の気持ちを理解して、同調してくれるのは彼女の知る人魚のなかには一人しかいません。 その人を探して、彼女は暗い海の底の底へとやってきました。 そして、小さな家の扉を叩きます。 「テンガアールだけど、姉さん来てるかな?」 「お入り」という返事が返ってくる前に彼女は扉を開けていました。 そして、すぐさま真紅の尾をした人魚を見つけて口元をほころばせました。 「姉さんっ」 彼女の目には、不機嫌そうに顔をしかめた老婆の姿など入り込む余地はありません。それがわかっているからか、老婆もなにも言いません。 「テンガアール…?」 少し意外そうにまばたきをする姉にテンガアールはにっこり笑いかけました。 「あのね、すごいんだよっ♪ 今夜、嵐が来るんだって」 「ああ、ちょうど今、その話をしていたところだ」 いつも冷静なお姉さん人魚は静かな声で応えます。 しかし、そんなコトで熱の冷めるテンガアールではありません。彼女は押さえきれない気持ちを伝えようと両手をいっぱいに広げます。 「それでね、人間の乗ってる大きな船の航路にちょうどぶつかるんだって」 お魚さんがまっさきに教えてくれたんだよ、と話す様子は実に楽しげです。 お姉さん人魚は彼女のように浮かれたりはしませんでしたが、それでもいくぶん興味を持ったようでした。 「それなら、また何か落とし物が拾えるかもしないな」 「きっといろんなのがたっくさんあるよ。ね、だから、拾いに行こ♪」 その言葉にはしかし、お姉さん人魚も意外そうに目を細めます。 「テンガアール?まさか、嵐のまっただなかに出掛ける気じゃないだろう?」 「えっと…その、」 テンガアールはとっさに返す言葉が思いつかなかったように、言いよどみました。 そう、まさか反対されるとは思っていなかったのです。 「やっぱり、ダメ…?」 様子をうかがうように上目遣いで見上げます。 「荒れた海に出るなど危なすぎる。今夜は家で一緒に嵐が過ぎるのを待つことにしよう」 お姉さん人魚の言うコトはもっともでした。 しかし、テンガアールは「でも、」と思わずにはいられません。 「でも、昔、姉さん言ったじゃない。ぼくが大きくなったら嵐の海を見に出掛けてもいいって。そう言ったよね?」 「……………それは」 それは、昔、駄々をこねる小さな妹をなだめるために言ったコトでした。 大きくなれば妹も嵐の危険性も理解してくれるだろう、と彼女が事態を楽観視していたことは否めません。 そんなことはテンガアールもわかっていましたが、 「約束は約束だよっ! ぼく、大きくなったもん」 元気良くそう言ってみせました。 彼女はお姉さん人魚が「約束」という言葉に弱いコトをよく知っていたのです。 お姉さん人魚はしばらく考えるように沈黙した後、 「私のそばを離れないとおまえが約束できるなら」 それなら構わない、と。 結局、そう言って嵐の中への外出を許してくれたのでした。 「姉さん、大好き♪」 テンガアールの喜びようは激しく、近くにあった小瓶たちが割れて老婆のお小言をくらうハメになったほどでした。 |
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