| 人魚姫T-【5】 |
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| 人間の船は離れた場所にいてもそうとわかるほど、大きなものでした。まっぷたつに裂けた様子が影と光に彩られてはっきりと見て取れます。 その光景に目を奪われてしまったテンガアールは、お姉さん人魚の呟きにも気づきません。船の端でちらちらと動いている(?)影のようなものが見えました。 まるで虫のようにちっぽけな影。 なんだろう? 何か、気になります。 「姉さん……船が」 お姉さん人魚が現れてすっかり落ち着いていたはずの胸が、再びどきどきしはじめました。それに鳥肌が立つような、ぞわぞわするような感じまで首の後ろでします。 『あれは…なに?』 気になる影。 あれは−−− 「…………落ちた」 まるで船の影の端っこがこぼれるように、それは船を離れました。吸い込まれるように海面へと落ちてゆく小さな点。 その瞬間、テンガアールにはわかったのです。 『人間だっ!』 船縁にしがみついていた人間が力尽きて手を放したのだと、そんな考えが脳裏に閃きました。そして、小さな影が海面にぶつかる前には、彼女は水の中に飛び込んでいました。 潜り込んだ刹那、反動で海中から飛び出した明るいオレンジ色の尾がおぼろげな残像を残します。 「テンガアール!?」 驚いたようなお姉さん人魚の声がテンガアールにも聞こえました。「あっ」と思いはしたものの、 『あの人を助けなくちゃ』 その想いをテンガアールは止めることができませんでした。 「姉さん!その人のことお願いっ」 さっきの人は姉さんに任せていれば絶対、大丈夫。 その思いこみに多少間違いがあるコトなど気づかず、テンガアールは海に落ちたばかりの人間目指して水をかき分けました。 船の真下に近づくにつれて、散乱する木ぎれや荷物が増えてきて行く手を遮ります。 見通しの利きにくい暗闇の中でテンガアールは勢いよく木箱に頭をぶつけてしまい、目の前がくらくらしました。 「もうっ」 『どこなの!?』 落ちた位置に波の強さと流れの方向を考え合わせて、テンガアールはだいたいの見当をつけてそこまで泳いできたのでした。それは頭で考えるようりも体で覚えてきた感覚での判断です。 『このへんじゃなくて、もっと向こうに流された…?』 祈るような気持ちでテンガアールは目をこらしました。そして−−− 『いたっ』 まだ生きているコトを知らせるように、腕で水を掻いている人間がいました。テンガアールがいる場所からまだ下の方です。 テンガアールは素早く泳ぎ寄ると、相手の背中側から細い腕を回してぴったりと体を寄せました。どうやら、さっき助けた人間よりは少し小柄な人間のようです。 『うん、これならぼくだけでも……なんとかなる』 波に引き離されないように気を配りつつ、テンガアールは海の上を目指しました。 しかし、それは彼女が思っていたよりも骨の折れる作業でした。確かについさっきの人間とは比べものにならないくらい軽いとはいえ、やはり重いことに変わりはありません。 それになにより、その人間の口からこぼれる泡の数がどんどん減っていくのがわかっているから、焦ります。 『空気の泡がなくなったら、人間って死ぬのよね…?』 「…っ」 もうあと少し、とテンガアールは懸命に尾を動かしました。 あと少し…。 「んっ」 テンガアールは海面に浮かぶ大きな板に片手をかけて、力を込めました。 もう一方の手で抱きかかえていた人間の体をなんとか板の上に引き上げることに成功して、ホッと一息。 気を失ってはいるものの、助けた人間はきちんと息をしていました。 『あとは…うーんと、このままだとダメだよね。…………近くの海岸まで運んだら、それで大丈夫かな』 海岸までの距離を考えてちょっと憂鬱になったテンガアールでしたが、気合いを入れ直すようにグッと拳を握りると人間の体を抱え直しました。 「絶対!ぼくが助けるんだからっ」 |
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